焼く・煮る・蒸す・生食など、様々な調理方法で食べられている秋の味覚「鮭」といえば、日本では男性よりも女性からの人気が圧倒的に高い魚として知られており、今ではサバやサンマ、アジなどと共に給食や食卓の定番魚となりつつあります。
そんな日本の食生活に欠かせない「鮭」ですが、いったいどのような場所で暮らしており、どんな食べ物を食べているのかなど詳しい生態を知っている方は、そう多くはありません。
そこで、今回は鮭とはどういった魚なのかについてご説明します。
日本における鮭とは何か
日本で「鮭」と呼ばれ、親しまれている魚は、主に「白鮭 (しろざけ)」のことであり、千葉県利根川以北ならびに日本海に面する山口県以北の河川を遡上しているところを漁獲しています。
鮭は、生まれ育った河川に戻ってくる母川回帰性という習性が古くから確認されており、なんとスペインとフランスにまたがるピレネー地方の洞窟壁画には、鮭が産卵回帰する様子が克明に記されています。
また、1653年には鮭の母川回帰現象を科学的に証明するため、タイセイヨウサケの幼魚にリボン識別を施すという実験も行われました。
しかし、なぜ鮭が生まれ育った河川に戻ってくるのか、そのメカニズムは21世紀になった現在でも明らかにされていません。
ただし、優れた母川回帰性を持つ魚類は、主にサケ科サケ属に属するものに限られており、同じサケ科に属しているイワナ属・イトウ属・サルモ属は母川回帰性の低い魚類だとされています。
鮭の生息地ついて
鮭は水温の低い環境を好む冷水性の魚類ですので、主に日本海・オホーツク海・ベーリング海・北太平洋を中心に分布しています。
ただ、彼らの回遊ルートには不明な点が多いため、鮭の生息地近辺の国々は独自の識別法を開発し、彼らの回遊ルートの全貌を解明しようと日々研究を重ねています。
鮭のことで現在明らかにされている事実は、降海後に外洋を回遊し、数年後立派に成長した鮭たちが母川へと回帰する点のみです。
日本でも20世紀終わり頃から捕獲した鮭に標識を付けて放流する「標識放流」などの手法を取り入れ、鮭の海洋分布の調査を行っています。
しかし、この手法では放流地点が限られてしまうこと、再捕獲される鮭のほとんどが母川回帰した成魚であったため、幼魚や未成魚に関する情報が得られず、正確な回遊ルートを調査することができませんでした。
そこで、新たに誕生したのが「遺伝的系群識別法」です。
遺伝的系群識別法とは、鮭の遺伝子パターンが地域集団ごとに異なる点を利用した調査方法であり、捕獲した鮭がどの地域集団に属しているのかを推定する手法のことです。
この識別法によって、謎のベールに包まれていた生活期の鮭の情報が得られるようになりました。
では、現在明らかにされている日本で生まれた鮭たちの一生をご紹介します。
日本で生まれ育った鮭の一生
日本で生まれた鮭たちは、春になると雪解け水と共に海へと下り、1ヶ月から3ヶ月ほど河口付近の沿岸部で生活を始めます。
このとき、生まれたばかりの幼魚たちは寒流が離岸する初夏までに遊泳能力や餌の捕獲方法などを養い、餌が豊富で競合種の少ない閉ざされた海域・オホーツク海へと旅立ちます。
オホーツク海に辿り着いた鮭の幼魚たちは晩秋まで滞在し、その後北太平洋西部へと回遊を始め、そこで初めての越冬を行います。
この時期の北太平洋西部の表面水温は平均5℃と非常に低く、なぜ鮭たちが水温の低い海域へと向かうのかは明らかにされていません。ただ、身体を低水温にさらすことで代謝活性を抑制させることができるからではないかと推定されています。
厳しい冬の時期を無事に乗り越えた鮭の幼魚たちは、春を迎えるとベーリング海へと向かいます。
そして、彼らのお兄さんやお姉さんたち (鮭の成魚・未成魚)と合流し、秋まで過ごします。
ベーリング海は日本の鮭たちにとって、とても過ごしやすい海域のため、ベーリング海とアラスカ湾を回遊しながら餌を捕獲し、大きく成長してゆきます。
4年後、成熟魚へと立派に育った幼魚たちは、ベーリング海で最後の夏を迎えると産卵のために千島列島沿いに南下を始め、9月から12月にかけてそれぞれの母川へと回帰してゆくのです。
今回は、日本における鮭とは何か、鮭の生息地や分布について詳しくご説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
これまで何気なく食べていた鮭ですが、鮭の生態を知ることで、ますます彼らのことが好きになったのではありませんか。
鮭の研究は、まだまだ始まったばかりですので、分からないところも多いですが、そこも鮭の魅力なのかもしれませんね。